余剰凍結胚盤胞はどうする?どのぐらい保存する?廃棄するのはどんな人?
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体外受精・顕微授精の治療にチャレンジしている方
治療の末、念願かなって妊娠できた方
みなさんは凍結受精卵が余った時にどうするか考えていらっしゃいますか?
自然周期や低刺激系クリニックでは、数は少なくとも質の良い受精卵を、妊娠できる治療を目指していると謳っています。
一度に採卵できる卵子も多くはないですし、高刺激系クリニックに比べたら余剰胚(余った受精卵)なども少なそうですよね。
でも、いざ妊娠できたとしたら?
その時、凍結している受精卵(凍結胚盤胞)をどうしますか?
妊娠できる可能性が高いかもしれない余剰胚をどうしたらいいでしょうか?
治療のやめどきは人それぞれのため、こうした問題に直面するタイミングも千差万別でしょう。
もし余剰胚の保存や廃棄に悩んでいる方がいらしたら、参考にできるかもしれないデータがあるので、ご紹介します。
https://www.iflg.net/frozen-embryos-divorce/
新橋夢クリニックでの調査
自然周期や低刺激系クリニックでの余剰胚の保存の転帰について調査した発表をご紹介します。
当院における余剰凍結胚盤胞保存および廃棄に関する調査
大見健二 , 瀬川智也, 田口智美他 (新橋夢クリニック&Natural ART Clinic 日本橋)
日本生殖医学会雑誌, 62(4), 388, 第62回日本生殖医学会, 下関, 2017.
この研究は、2017年の日本生殖医学会における学会発表(抄録)のため、詳細なデータの分析はありません。
自然周期または低刺激をメインとする不妊治療専門病院でのデータということで、患者にとっても貴重な発表だと思います。
タイトルには 「当院」とありますが、共著者は総勢14名おり、2つのクリニックから構成されています。
しかし、第一著者は新橋夢クリニックのスタッフであり、Natural ART Clinic 日本橋のスタッフ名は共著者の後ろにまとまっているので、おそらく当院というのは新橋夢クリニックを指していると考えられます。
研究対象者は724症例
データ収集期間は、2010年から2016年の7年間です。
不妊治療で妊娠出産後に、余剰凍結胚盤胞の廃棄を希望された724症例(全1307胚)を対象としています。
言い換えると、7年間で1つのクリニックにおいて、724夫婦が合計1307個の受精卵を廃棄したということです。
平均して1夫婦につき約2個の受精卵を廃棄していることになります。
余剰胚が倫理的課題として挙げられる理由が分かりますね。
胚廃棄申し込み時の年齢
平均39.1±3.6歳
- 36歳以下 33.5%
- 37-40歳 40.1%
- 41歳以上 26.4%
37歳から40歳までのグループが40%と最も多くなっていますね。
41歳以上のグループでは、卵巣刺激に対する反応も悪いことが予想されますし割合が低いのは納得ですね。
36歳以下の場合、多くの受精卵を保有したとしても、移植するだけの(様々な)余裕ががあるから、割合が低くなるのかもしれません。
実子数(こどもの数)
実子数が1人のうち、こどもの性別が男児は55.8% 女児は44.2%で有意に男児のほうが多かったそうです(p < 0.01)。
- 1人 72.0%
- 2人 26.9%
- 3人 1.1%
実子数が一人で余剰凍結胚があるということは、一人目不妊で治療し、妊娠出産したということでしょう。
新鮮胚移植、胚盤胞移植、ふりかけ受精(conventional IVF)、発育の早い胚の場合、産まれるこどもの性別は男児のほうが多いと一般的に言われていますが、
本調査での抄録からは結果的に出産に至った際の治療背景について、初期胚か胚盤胞等の詳細は記載されていませんでした。
個人的には、一人目のこどもが男の子だったからもう移植しないというよりは、夫婦の年齢や経済的余裕、社会的支援の状況などのほうが、余剰胚の対応に影響しそうだと思います。
平均廃棄胚数
平均1.8±1.3個(範囲1 - 12個)
これは、冒頭の研究対象者のところで述べた通りですね。
廃棄胚数の範囲が、1個から12個とありますが、12個も凍結胚があると保管料も大変なことになりそうです・・・。
年間胚廃棄症例数(例)
2010年 34
2011年 40
2012年 78
2013年 94
2014年 138
2015年 177
2016年 158
抄録では「廃棄症例数が増加している」とされていますが、実際は廃棄症例数だけでなく、患者症例数と比べての%で比較しないと増加しているのかはわからないはずです。今後の論文発表を期待しています。
出産日から廃棄申し込みまでの平均期間
平均1.47±1.59年
出産から1年半後というと、ほとんどのこどもが歩き始めるころでしょうか。離乳食も完了に近づき、大人の言葉も理解して発語が増えてくるころですね。
以下は、本データの内訳です。
- 1年未満 49.3%
- 1年以上2年未満 16.8%
- 2年以上3年未満 14.2%
- 3年以上 19.7%
最も多かったのは、出産してから1年未満で廃棄をした方で、約半数いらっしゃいますね。次に多かったのは、3年以上も廃棄せずに毎年保存を更新していた方が約20%いらしたようです。
やはりここでも、対象者の年齢や職業背景が気になるところです。個人的には、年齢が高いほど、そして仕事をしている人が多いほど、こどもをもつ数が少ないと考えられるので、このようなケースでは余剰胚の廃棄までの期間も短くなるんではないかと予想します。
胚凍結から廃棄申し込みまでの平均期間
平均2.87±1.76年
- 1年未満 27.7%
- 1年以上2年未満 17.2%
- 2年以上3年未満 17.0%
- 3年以上 38.1%
わざわざ、「出産してからの期間」「胚凍結からの期間」と、廃棄申し込みまでの平均期間を分けていますね。そして、「胚凍結から廃棄申し込みまでの平均期間」のほうが長い傾向であり、3年以上保存した人が最も多く、約40%いらっしゃいました。
このデータは、治療を受けても結果的に出産に至らなかった方を含むと考えられ、廃棄申し込みまでの期間が長くなったことが予測されます。
たしかに、移植を続けていると、また出産に結びつかなかったらという不安、凍結胚がなくなってしまう怖さで移植に踏み切れないという方もいると思います。
芸能事務所タイタンの社長で、爆笑問題・太田光氏の妻、太田光代さんも、以前雑誌のインタビューで凍結している受精卵を移植することを長い間戸惑い、受精卵の保管を更新し続けているとのことでした。
参考⇒女性の卵子はますます老化、男性は無精子症発症、生まれてくる子どもはダウン症の可能性が急上昇 「不妊大国」ニッポンの真実(週刊現代) | 現代ビジネス | 講談社(4/5)
著者らは、抄録の考察で以下のように述べています。
治療に難渋する多くの症例と合反する生殖医療の現状が明らかとなった。また殆どの症例が実子数1-2人にも関わらず胚を廃棄して治療終了しており、図らずも現代日本の少子化問題を象徴する結果が得られた。今後は2人目以降の不妊治療への経済支援や子育て支援増加なども検討すべき事案ではないかと考えられた。
経済的支援等は確かに大切だと思うのですが、いざ2人目以降について考えたとしても、その時点で高齢の場合、お金さえあれば解決できるという問題でもなくなるなぁと思います。
例えば、妊娠できても流産率が増加していますし、流産した場合は身体も心もとても疲弊します。仕事をしていれば仕事の調整も必要になります。
また、年齢に伴う先天性障害リスクの増加であったり、早産等のリスク上昇による影響を考慮すると、実子が多くないからと言って単純に移植しようとは思えないでしょう。
まとめ
自然周期または低刺激をメインとする不妊治療専門病院である新橋夢クリニックにおける7年間の余剰胚について
- 平均1.8±1.3個(範囲1 - 12個)の廃棄申し込みがあった
- 胚廃棄申し込み時の年齢は平均39.1±3.6歳であった
- 出産日から廃棄申し込みまでの期間は平均1.47±1.59年であった